「悪玉コレステロール」という言葉を聞くと、多くの方は“悪”という響きから「体に悪いもの」というイメージを持つかもしれません。しかし、“悪玉”とされるこのコレステロール、正式には LDL(Low Density Lipoprotein:低比重リポタンパク) と呼ばれ、その名前には“悪”という意味は一切含まれていません。
なぜLDLコレステロールが「悪玉」と呼ばれるようになったのかは定かではありませんが、実は 私たちの体にとって必要不可欠で、重要な役割を果たしている存在 なのです。
【脂質の種類とコレステロールの基礎知識】
体内には以下の4種類の脂質が存在します:
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中性脂肪(トリグリセリド)
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コレステロール
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リン脂質
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遊離脂肪酸
これらは血液中に存在しており、脂質は アポリポタンパク質(脂質の運搬役) と結合することで血漿中に安定して存在できます。
この結合体は、粒子の大きさや比重の違いにより以下のように分類されます:
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カイロミクロン
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VLDL(超低比重リポタンパク)
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IDL(中間比重リポタンパク)
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LDL(低比重リポタンパク)
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HDL(高比重リポタンパク)
比重が大きいほどアポリポタンパク質の割合が高く、逆に脂質の割合は低くなります。
【LDLとHDLコレステロールの役割】
中でもよく耳にするのが LDLコレステロール と HDLコレステロール です。
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LDLコレステロール:IDLからトリグリセリドがほぼ除かれ、コレステロールが高濃度で含まれた状態です。肝臓から体の各臓器へコレステロールを運ぶ役割を担っています。
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HDLコレステロール:肝臓や小腸で合成され、約50%がタンパク質で構成されています。体内に余ったコレステロールを回収し、肝臓へ戻す役割を担っています。
簡単に言えば
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LDLコレステロール:運搬役(配達係)
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HDLコレステロール:回収役(お掃除係)
です。LDLが高いと“悪い”と思われがちですが、LDLも体にとって重要な働きをしているのです。
【LDLコレステロールの重要な働き】
LDLコレステロールは、以下のような重要な役割を持っています:
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細胞膜の材料:体内の約37兆個の細胞すべての細胞膜に必要。これを他のコレステロールで代用することはできません。
→ LDLが不足すると、免疫力が下がり、感染症やがんにかかりやすくなる可能性も。 -
脳内に豊富に存在:体内コレステロールの約1/4が脳にあり、脳の正常な働きに必要不可欠です。
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ホルモンの材料:性ホルモン(テストステロン、エストロゲン、プロゲステロン)もLDLが材料。
→ 閉経後にLDLコレステロールが上がるのは自然なこと。女性ホルモンの分泌が減るため、LDLが体内で余りやすくなります。 -
セロトニンの運搬にも関与:LDLが少ないと、気分のムラや精神面の不調が起こる可能性も指摘されています。
【食生活でLDLを改善できるのか?】
LDLコレステロールの量は、
- 約20%が食事からの影響
- 約80%が肝臓など体内で合成される
とされています。
つまり、食事だけで大きくコントロールするのは難しいということです。
また、※1ホメオスタシス(恒常性)の働きにより、食事からコレステロールを控えすぎると、逆に肝臓がより多く合成しようとすると提唱する専門家もいるようです。
【要注意したいLDLが高くなりやすい人と疾患】
以下のような方はLDLコレステロールが高くなりやすい傾向があります:
- 喫煙者
- 糖尿病の方
以下の疾患がある方はLDLコレステロールに注意が必要です:
- 心疾患のある方
LDLは血管を硬くしたり、血液を固まりやすくする作用があるため、かかりつけ医に相談の上、必要に応じて治療を受けましょう。
【最後に】
LDLコレステロールは、必ずしも「悪」ではありません。体のあらゆる働きに必要な材料であり、健康維持にとって重要な存在です。基準値70~140mg/dlの数値の低い方になればなるほど良いと言うわけではないと言う事を頭の片隅に置いておくと良いかも知れません。
ただし、異常に高すぎる状態は血管への悪影響があるため注意が必要です。
- 水溶性食物繊維や乳酸菌は、LDLを吸着し体外に排出する働きがあり、
- 善玉菌(乳酸菌など)が作る短鎖脂肪酸は、肝臓でのLDLコレステロール合成を抑制してくれると言われています。
数値が高めの方は、こうした食品を意識的に摂ることで、バランス改善に役立つかもしれません。
※1 ホメオスタシス:体温や血液成分などを、環境の変化にかかわらず一定に保とうとする体の状態
【今日のまとめ】
- LDLコレステロール:コレステロールを血中に運ぶ(配達係)
- HDLコレステロール:コレステロールを肝臓に回収する(お掃除係)
- 閉経後にLDL値が上がるのは自然なこと
- 食事での改善は効果が小さいが、無意味ではない
- 喫煙者・糖尿病・心疾患のある方は特に注意が必要
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